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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)7311号 判決

原告

小松和歌子

被告

日本交通株式会社

主文

一、被告は原告に対し金七一万円およびこれに対する昭和四四年七月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四、この判決は主文第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

一、被告は原告に対し七四二万円およびこれに対する昭和四四年七月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

(被告)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、当事者の主張

(原告)

一、事故

原告は次の交通事故で負傷した。

(一) 日時 昭和四三年一月八日午前一時三〇分頃

(二) 場所 草加市西町一五番地先通称草加バイバス入口附近路上

(三) 加害車 タクシー(練馬五き四三三三号)

運転者 訴外田野猛繁

(四) 被害者 原告(加害車乗客)

(五) 態様 原告は右タクシー後部座席に乗車中

訴外田野が居眠り運転をしたため

停車中の他車に追突

(六) 傷害 右事故で、原告は左眼球出血、左顔面打撲傷門歯折損、腰椎捻挫等の傷害を蒙つた。

二、責任原因

被告は加害車を自己のため運行の用に供していたものであるから、本件事故につき自賠法三条の責任がある。

三、損害

原告は事故当時銀座のバー「まき」に勤務するホステスであつたが、次の損害を蒙つた。

(一) 休業損害 二五二万円

(収入) 固定給月額一五万円(日給六〇〇〇円)

サービス料月額六万円(客一組二〇〇〇円)

(休業期間) 一二ケ月(昭和四三年一月八日から昭和四四年一月末日まで)

(計算)

(150000円+60000円)×12=2520000円

(二) 逸失利益

原告は前記傷害により外貌上ほとんど完全な禿頭となつてしまつたため、退職の已むなきに至り、少くとも二年間は前記収入は獲得しえたのに、これを得ることが出来なかつたので、この損害は前項金額の二年分の五〇四万円となる。

(三) 慰藉料

原告は前記傷害を受けたほか、これが原因となつて頭髪が脱落し、および禿頭という女子としては耐えがたい外貌の数カ月間を過すことを余儀なくされ、且つ高収入をも失い、ホステスとしての再出発を閉ざされたので、少くとも六〇万円の慰藉料が相当である。

(四) 損害の填補

原告は被告から七四万円を受領している。

四、よつて原告は被告に対し、(一)ないし(三)の合計から(四)の金員を差引いた七四二万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年七月一八日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

五、被告主張第二項の事実を認める。

(被告)

一、原告主張第一項の事実((六)を除く)、同第二項の事実を認める。第一項(六)の事実は不知。同第三項の事実中(四)の事実は認めるが、その余の事実は不知。

二、被告は原告主張の七四万円を支払つたほか、なお一五万円支払つているので、既払分は八九万円である。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、原告主張第一項((六)を除く)、第二項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告の傷害の程度について判断する。

〔証拠略〕によると、原告は本件事故で頸椎損傷、頭部打撲、左顔面打撲および左上腕打撲の傷害を負い、春日部市立病院に昭和四三年一月八日から昭和四四年一月三一日まで通院加療したこと、右期間の診療実日数は六三日であること、右治療により時々項部、肩甲部痛はあるが、頸椎損傷の症状は軽快し、神経根症状はないこと

の各事実が認められる。

なお、〔証拠略〕によれば、原告は昭和四四年四月初め頃から頭髪脱落が始まり、やがて安全な禿頭(悪性円形脱毛症)になり、同年七月頃より快方に向つてやがて完治したことが認められる。そして、昭和四四年四月七日から一年以上にわたつて原告の治療にあたつた医師外島清臣の証言によれば、原告の円形脱毛症は必因性のものである公算が大きいが、原告本人の職業などその生活環境に照らすと本件事故以外に何ら心理的煩悶がなかつた旨の原告本人尋問の結果はそのままには信用できず、他に右疾病の原因が、本件事故ないしそのシヨツクによるものと認めるに足りる証拠はない。

三、次に原告の本件事故により蒙つた損害について判断する。

〔証拠略〕によると、

原告は事故当時銀座バー「まき」のホステスをしており、固定給、歩合、サービス料を加え、売掛金の回収不能による減額を考慮してなお少くとも平均月一五万円程度の収入を得ていたこと、右収入に対して、衣装代、洗い張り代、セツトなでつけなどの化粧代、帰途のタクシー代などの経費は月五万円程度を要すること、昭和四六年四月(原告本人尋問時)現在において、原告はクラブの経理係として勤務し、月収五万円を得ていること、

の各事実が認められる。

そして、右掲各証拠と前記傷害の程度、通院期間、通院実日数等を総合して、原告は、受傷のため、三カ月程度は全く働けず、その後九カ月は六〇%の労働能力を喪失したものと認めるべく、さらにその後一年間は、前記円形脱毛症のためもあつて現実には勤務をしていないが、本件事故と相当因果関係を肯認しうる部分は、ホステスという職種の職場復帰の困難性をも考慮し、その三〇%程度と認めるべきである。そうすると原告の財産的損害は次の計算のとおり一二〇万円となる。

(150000円-50000円)×(3+9×60/100+12×30/100)=120万0000円

原告主張の財産的損害中、右期間を超える部分は本件事故との相当因果関係を認めえない。

四、慰藉料

原告の前記傷害によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するには諸般の事情を考慮すると四〇万円が相当である。

五、よつて原告の損害合計は一六〇万円となるところ、原告が右損害の填補として既に八九万円の支払を受けていることは当事者間に争いがないのでこれを右損害額から控除すると残額は七一万円となる。

六、よつて被告に対し、原告が七一万円およびこれに対する記録上明らかな訴状送達の日の翌日である昭和四四年七月一八日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、仮執行宣言については同法一九六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井芳雄 浜崎恭生 佐々木一彦)

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